Last update : 2024.07.10

日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・
日本肥満症治療学会 合同企画シンポジウム
領域横断的な肥満症対策の推進に向けた
ワーキンググループ活動の現状と今後

領域横断的な肥満症対策の推進に向けたワーキンググループと
日本医学会連合TEAM事業について

画像:山内 敏正

領域横断的な肥満症対策の推進に向けたワーキンググループ

委員長 山内 敏正

東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 教授

日本肥満学会は2000年に「新しい肥満の判定と肥満症の診断基準」を発表し、肥満のうち種々の健康障害と関連し、医学的に減量を必要とする病態を指し、疾患単位として取り扱うものとして肥満症を定義した。その後、「肥満症治療ガイドライン2006」・「肥満症診断基準2011」・「肥満症診療ガイドライン2016」を作成、公表するとともに、「東京宣言(2000年)」・「神戸宣言(2006年)」・「淡路宣言(2011年)」・「名古屋宣言(2015年)」を発表してきた。特に「名古屋宣言」は、アジア・オセアニア肥満学会に参加した11ヵ国にて討議・調印したもので、治療すべき肥満を肥満症(Obesity Disease)として適切に選び出し、医学的に適切な治療・管理を行うというコンセプトをキーとする日本の肥満研究・肥満症診療を世界に向け発信した。
わが国では、ライフスタイルの変化に伴って20歳以上の肥満(BMII≧25)の割合が男性 28.7%・女性 21.3%に達している。特に男性については、過去50年で肥満は倍増している。肥満症の診断基準には、肥満に起因ないし関連し、減量を必要とする健康障害として、11の疾患を挙げている(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常・不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患、肥満関連腎疾患)。また、診断基準には含められていないが、肥満に関連する健康障害については、大腸がん・膵臓がん・肝臓がん・子宮体がん・乳がんなどがある。
したがって、肥満症への有効な対策を行うためには、日本肥満学会のみで進めるのでなく、それぞれの健康障害を専門とする学会がその領域を超え英知を結集して横断的に対応することが必要であると考えられ、2017年に日本医学会連合の呼びかけにより、「領域横断的な肥満症対策の推進に向けたワーキンググループ」が日本肥満学会を主幹とした23学会の協力を得て立ち上げられた。
その後2回の会合を経て、2018年に神戸で開催された第39回日本肥満学会の際に、23学会が肥満症の撲滅を目指して領域を超えて協働することに合意し、「神戸宣言2018」が発表された。その後も、毎年の日本肥満学会年次学術集会で「領域横断的肥満症WG連携企画」というタイトルでシンポジウムを2つずつ開催し、肥満症に関する各種エビデンスの創成や診療ガイドラインの作成・改訂に活用してきた。
このように日本医学会連合は、加盟学会に広く共通する課題を個別の学会を超えて領域横断的に検討し、その結果を医学界並びに国民に発信するための領域横断的活動を、個別の要望に応じ支援してきたが、インパクトの強い結果が得られ、加盟学会間の分野横断的な学術連携は医学会連合の重要な使命と言えることから、2022年度から「領域横断的連携活動事業(TEAM事業)」として公募を開始した。
「領域横断的な肥満症対策の推進に向けたワーキンググループ」は、日本医学会連合の呼びかけにより発足した経緯とその精神を未来に向け発展させるために、改めて各学会に参加を呼び掛け、23学会の合意を得て、初年度である2022年度の「領域横断的連携活動事業(TEAM事業)」に応募した。応募では以下の3つの柱を具体的活動内容として掲げた。
(1)肥満症に伴う各々の健康障害の発症・進展とBMIの関係を明らかにすると共に、減量による改善効果のリアルワールド解析を行い、日本人のエビデンスを創出する。
(2)オベシティスティグマ解消のアドボカシー活動を連携して行う。
(3)高度肥満症に対する減量・代謝改善手術の劇的な治療効果の分子機序を解明し、予防・治療法を開発する基盤とする。
その結果、TEAM事業の初年度に採択された3事業の一つとして2022年6月に採択され、2022年7月より2024年7月末日までの2年間、日本医学会連合による領域横断的連携活動の支援対象として実施されることとなった。
採択1年目の活動としては、第31回日本医学会総会市民公開セッションとして2023年4月22日に、日本医学会連合TEAM事業企画『体重が増えた時 気を付けたい合併症の話-豊かな人生100年時代の無病息災に向けて-』を開催し、一般市民向けに肥満症の合併症による健康障害に関する啓発活動を実施し、盛会裏に終了した。
採択2年目の活動としては、本ワーキンググループ参画23学会より発表者を招き、各学会の代表者より肥満症に関するテーマでの講演ならびに意見交換することが企画され、第44回日本肥満学会・第41回日本肥満症治療学会学術集会会期中の2023年11月26日に、「日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・日本肥満症治療学会合同企画シンポジウム」として実現した。
これらはまさに、TEAM事業の応募時に掲げた、加盟学会に広く共通する「肥満症」に関する課題を、基礎医学・臨床医学(内科系・外科系)・社会医学の総合知を結集して、加盟学会間の分野横断的な学術連携により検討しその成果を広く発信する活動、に叶うものであると確信している。
この度、「日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・日本肥満症治療学会合同企画シンポジウム」で実現した意義ある活動と、ご参加頂いた先生方による学術的価値の高い発表内容を、開催後も23学会はもとより、日本医学会連合および加盟学会、さらには社会全般に広く報告する趣旨により、本実施報告を制作することとなった。最後に、本実施報告の制作にあたり執筆にご尽力頂いた座長、演者の先生方ならびに、各学会の代表として演者をシンポジウムに派遣頂き、執筆にご理解ご協力頂いた23学会の皆様、活動と資金の支援を頂いた日本医学会連合の皆様に、心より御礼申し上げる。

以上