Last update : 2024.07.10

日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・
日本肥満症治療学会 合同企画シンポジウム
【第1部】肥満症に伴う各々の健康障害の発症・進展
とBMIの関係と減量による改善効果

発表者

ご氏名 廣田 勇士 先生
参画学会 一般社団法人 日本肥満学会
ご所属 神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門
ご講演タイトル 基調講演:診療録直結型肥満症データベース(J-ORBIT)の現状と今後の展望
略歴
1998年6月 神戸大学第2内科入局・神戸大学医学部附属病院 内科研修医
1999年6月 高砂市民病院 内科
2001年4月 神戸大学大学院医学系研究科(博士課程)入学
2003年3月
~04年3月
大阪大学大学院ゲノム機能分野(臨床遺伝学)
特別研究学生
2007年4月 神戸大学医学部附属病院 
糖尿病・内分泌内科 医員
2009年1月 神戸大学医学部附属病院 
糖尿病・内分泌内科 特定助教
2010年6月 神戸大学医学部附属病院 
糖尿病・内分泌内科 助教
2019年7月 神戸大学医学部附属病院 
糖尿病・内分泌内科 講師
2020年7月 神戸大学大学院医学研究科 
糖尿病・内分泌内科学部門 准教授

ご発表内容の要約

日本肥満学会は、肥満の中から医学的に減量の必要な病態を一つの疾患単位として扱い、肥満症と定義している。肥満症の診断には、1)耐糖能障害、2)脂質異常症、3)高血圧、4)高尿酸血症・痛風、5)冠動脈疾患、6)脳梗塞・一過性脳虚血性発作、7)非アルコール性脂肪性肝疾患、8)月経異常・女性不妊、9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、10)運動器疾患、11)肥満関連腎臓病と いった11の健康障害の合併が必須である(肥満症診療ガイドライン2022)。肥満症は様々な健康障害を伴う疾患であるが、肥満の程度と個々の健康障害の発症との関連についての知見の蓄積は十分ではなく、肥満症に対する有効な対策を推進するためには、我が国の成績に基づいたエビデンスの構築が必要である。
日本肥満学会では、肥満症の臨床情報収集を目的として、標準化電子診療録情報ストレージシステムであるSS-MIX2を活用 した診療録直結型肥満症データベースJ-ORBIT(Japan Obesity Research Based on electronIc healTh record)の開発を進めている。糖尿病学会が進めているJ-DREAMS(Japan Diabetes compREhensive database project based on an Advanced electronic Medical record System)と同様、診療録に記載される非構造化データを診療テンプレートによって構造化データに転換した上で電子情報としてSS-MIX2に保存し、処方・検査情報とともにデータセンターに送信し、データベース化するものである。肥満症診療テンプレートは神戸大学病院に2019年に実装され、その後、全国7施設で実装を進めており、最終的に1万人規模のデータベース構築を目指している。
神戸大学病院において、2018年12月~2023年5月までに1225名の肥満症患者(男性586名、56.1±16.1歳、BMI 29.9±5.4kg/m2)のデータが登録され、これらのデータはのべ16778回(患者1名当たり約13.7回)更新された。2023年5月更新データの分析では、健康障害の併存数は3.5±1.4/人であり、それぞれの健康障害の併存率は大きく異なることが明らかとなってきた。また本学会(第44回日本肥満学会、第41回日本肥満症治療学会学術集会)で「J-ORBITを用いた肥満症/高度肥満症での肥満関連健康障害の合併率と減量目標達成率に関する検討」という演題を発表し、高度肥満症は若年にも関わらず、より多くの健康障害を合併していること、および、肥満症・高度肥満症ともに減量目標達成率は4割程度であることを明らかとした。
2024年度以降も、年間数施設ずつのテンプレート導入を目指し、最終的には1万人規模のデータベースを構築する予定であり、多数の肥満症患者の横断的データの解析のみならず、経時的な推移についても解析を実施していくこととしている。本事業を全国規模で普及させることで、肥満症診療の均てん化と質の向上を資することも期待でき、肥満症の診療・研究に大きく寄与すると考えられる。

以上