あなたの肥満、治療が必要な「肥満症」かも!?

「体重が増えた」、「お腹の脂肪や体型が気になる」など、太っていることを気にする方は多いと思います。近年、単に太っているだけの「肥満」と違い、肥満によるさまざまな病気を抱える「肥満症」が問題となっています。
「肥満症」のある人は複数の病気を合併することが多いのですが、減量治療によってそれらの合併症を予防・改善することができます。そのため、「肥満」と「肥満症」の違いを知り、必要な方は適切な治療を受けることが大切です。

「肥満」と「肥満症」は違います

「肥満」は「太っている状態」を指す言葉で、病気を意味するものではありません。しかし、「肥満」に伴って健康を脅かす合併症が有る場合、または合併症になるリスクが高い場合、それは単なる「肥満」ではなく「肥満症」と診断され、医学的な減量治療の対象となります。
一方、健康診断などで指摘される「メタボリックシンドローム」は別名「内臓脂肪症候群」といわれ、「肥満」である、ないに関わらず、内臓脂肪の蓄積および血圧、血糖値、血清脂質値のうち2つ以上が基準値から外れている場合に診断されます。

肥満

身長に比較して体重が重い状態です。体格指数(BMI=体重[㎏]/身長[m]2)が18.5以上25未満であれば普通体重、18.5未満なら低体重(やせ過ぎ)で、25以上の場合が肥満に分類されます。さらにBMIが35以上になると高度肥満に区分されます。

肥満症

肥満(BMIが25以上)で、肥満による11種の健康障害(合併症)が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に診断され、減量による医学的治療の対象になります。BMIが35以上の場合、高度肥満症となります。

メタボリックシンドローム

近年注目されている過剰な内臓脂肪蓄積です。BMIが25未満でも、腹囲が男性で85cm以上、女性で90cm以上の場合で、血圧、血糖、血清脂質のうち2つ以上が基準値から外れると診断されます。心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる動脈硬化性疾患を引き起こすリスクが高く、早期の内臓脂肪を減らす対策が必要です。

<参考文献>
日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2016」ライフサイエンス出版, 2016.

現代人の肥満は自己責任ではない

肥満は、食べ過ぎや運動不足が要因であるなど、時に負の印象で見られることがありますが、現代人にとって、肥満や肥満症が自己責任という考え方は誤っており、決して負の印象で捉えられるべきものではありません。

<社会や環境による要因>

交通網や車社会の発展、食品加工保存技術・運搬輸送能、ネット社会の発達、コンビニエンスストアや手軽な飲食店の増加などの社会環境の変化、また個人のおかれた社会的な環境(地域、就労状況等)やストレスなどが、肥満やそれに伴う健康障害を増加させることが指摘されています。しかしこれら社会環境の変化は個人の努力とは無関係であり、文明の進歩を利用することは決して悪いことではありません。

<遺伝因子による個人差>

また、肥満の発症には生まれもった遺伝子も関係していることがわかってきました。消化・吸収・代謝などに関わるホルモンの分泌量や腸内環境などにも個人差があります。そのため、食べる量を減らして運動を行えば体重管理は誰でも同じようにできるはず、という単一的な考え方はできません。

<参考文献>
日本プライマリ・ケア連合学会「健康格差に対する見解と行動指針」平成30年3月25日
上平雄大, 中里雅光, オベシティ・スティグマ - 肥満, 肥満症があることによるスティグマ -. Medical Practice, 38(7), 1007-1010, 文光堂, 2021.

肥満症の治療の基本は減量

肥満症の治療の基本は、減量です。ただし、目的はBMI を25以下にすることではなく、内臓脂肪を減らして肥満に合併する疾患を予防・改善することです。肥満症に含まれる11種の疾患は、体重減少により改善できるので、それぞれの合併症に合った減量目標を設定します。

<減量治療①ライフスタイルの改善>

減量治療の基本は、食事、運動、行動療法などのライフスタイル改善療法です。薬物治療や外科手術を行う際にもライフスタイル改善療法は必須です。できるかぎり医師や保健師、管理栄養士、運動指導者(理学療法士、健康運動指導士等)の専門職の支援を受けながら、一人ひとりの背景や環境に合った食事療法と運動療法を行います。また、食事・運動療法は続けることが何よりも大切で、かつ難しいことです。動機付けやいかに生活の中に無理なく自然に取り入れるかを工夫することで、食事療法と運動療法の効果が高まります。

<減量治療②薬物療法>

肥満症の薬物療法は、肥満症と診断された方が食事療法や運動療法などを行ってもそれだけでは効果が不十分な人に対して、医師の判断により検討されます。単に「やせたい」というだけでは決して薬物治療の対象にはなりません。
現在、日本で肥満症治療薬として保険診療で使えるのは食欲抑制薬であるマジンドールですが、対象はBMI 35以上の高度肥満症に限定されています。
そのほか、脂肪の吸収を抑制する作用のある薬やエネルギー消費を高めて脂肪の減少を図る代謝促進薬、消化管運動や空腹感を抑える働きを持つ薬などの研究・開発が進んでおり期待されています。

<減量治療③外科療法>

高度肥満症(BMI 35以上)では、胃の一部を切除する外科手術によって長期的に減量を維持でき、肥満に関連する各種健康障害に改善効果が高いことが証明されています。ただし、対象となるのは、18~65歳で、他の病気が原因ではない肥満であり、6ヵ月以上の内科治療で改善が見られないBMI 35以上(糖尿病等の代謝障害を合併する例では,BMI 32以上)の高度肥満症の場合のみです。

<参考文献>
日本肥満学会編「肥満症診療ガイドライン2016」ライフサイエンス出版, 2016.

肥満症が気になる方は医療機関を受診しましょう

肥満症は単なる肥満と違って、合併症を併せ持つあるいは合併症のリスクが高い、れっきとした「病気」です。医療機関で治療を受けることができます。
肥満症に当てはまるかもしれないと思われる方は、早めに内科などの医療機関を受診しましょう。


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