Last update : 2024.07.10

日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・
日本肥満症治療学会 合同企画シンポジウム
【第1部】肥満症に伴う各々の健康障害の発症・進展
とBMIの関係と減量による改善効果

発表者

ご氏名 徳重 克年 先生
参画学会 一般社団法人 日本肝臓学会
ご所属 JCHO東京城東病院 消化器内科
ご講演タイトル 脂肪性肝疾患の新たな名称と概念
略歴
1984年 筑波大学 医学専門学群  卒業
1984年 東京女子医大 消化器内科 入局
1993-
1995年
米国マサチューセッツ総合病院 留学
1996年 東京女子医大 消化器内科 助手
2003年 消化器内科 講師
2010年 消化器内科 准教授
2015年 消化器内科 教授・講座主任(~2024年3月)
2024年 JCHO東京城東病院 消化器内科部長

ご発表内容の要約

非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)は、“主にメタボリックシンドロームに関連する諸因子とともに、組織診断あるいは画像診断にて脂肪肝を認めた病態であり、他の肝疾患は除外する”と定義されてきた。
しかし、①非アルコール性脂肪性肝疾患全部を含んでいて病態が反映されてない、さらに除外によって診断されている、②中等度飲酒者の脂肪肝の診断名がない、③fattyやalcoholicという言葉が一般社会観念的に適切でない、など問題点が指摘されてきた。
2020年にはオーストラリアおよび欧州の一部から、metabolic associated fatty liver disease(MAFLD)と言う概念が提唱され、飲酒量の有無を問わない、またメタボの基準を設けて積極的診断によって診断される新たな概念が提案された。しかし、これも中間飲酒者脂肪肝と非飲酒者の脂肪肝が同一に扱われており、またメタボの基準が煩雑なことより、2023年に新たな脂肪性肝疾患の定義・分類が提案された。日本消化器病学会も日本肝臓学会も基本的にこの提案を受け入れている。
具体的には、まず様々な病因による脂肪性肝疾患を包含する疾患概念として脂肪性肝疾患(Steatotic liver disease, SLD)が提唱され、SLDをさらに5つのカテゴリーに分類した。まずNAFLDと同等か類似した脂肪性肝疾患として Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Diseases (MASLD)が提唱された。MASLDは5つの心代謝危険因子(①BMIまたは腹囲、②血糖値またはHbA1c、③血圧、④中性脂肪、⑤HDLコレステロール)のうち少なくとも1つの因子の異常を満たす脂肪肝で、従来の除外診断によらず、代謝性因子との関連を明確にした。なお飲酒量は、NAFLDと同じ量のアルコール摂取制限を有する。さらに新しい脂肪肝カテゴリーとしてMASLD and Increased alcohol Intake(MetALD)という新しい脂肪肝カテゴリーが発表された。MetALDはいわゆる中間飲酒者<週当たりのアルコール摂取量[女性140-350g/週、男性210-420g/週]>の脂肪肝である。さらにアルコール関連肝疾患(Alcohol -associated liver disease, ALD)、薬剤など原因が特定できる脂肪肝(Specific aetiology SLD)、原因不明の脂肪肝(Cryptogenic SLD)と五つに分類された。なおALDは海外では多くの患者で肝脂肪沈着を伴うが、本邦では肝脂肪沈着を伴なわないケースも多く、アルコール性肝線維症という概念も受け入れられておりすべてのALDをSLDに含めるべきか?議論もある。しかし現時点ではALDの病態から、およびALD初期には多くは肝脂肪沈着を呈すること、あと禁酒すると2-3週間で肝脂肪沈着が消失することより、基本すべのALDをSLDに含めるべきとの意見が多い
今後の問題点としては、5つの心代謝危険因子のうちBMIや腹囲など人種差がある項目に関して、欧米の基準ではなく、日本人独自の基準で設定しなくてはならない事、さらに日本病名も検討しなくてはならない。今後日本肥満学会とも協力して、日本肝臓学会・日本消化器病学会においてこれらの課題に取り組んでゆく予定である。
さらに脂肪肝は肝硬変や肝臓がんに繋がることで注目を浴びているが、近年糖尿病や動脈硬化性疾患の初期病変とも捉えられている。米国循環器病学会から、NAFLD/NASHは日本動脈硬化性疾患のリスク因子であり予防的な治療の必要性が提案されており、今後動脈硬化学会や日本糖尿病学会と協力して動脈硬化疾患や糖尿病の予防・治療に努めてゆきたい。

以上