Last update : 2024.07.10

日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・
日本肥満症治療学会 合同企画シンポジウム
【第1部】肥満症に伴う各々の健康障害の発症・進展
とBMIの関係と減量による改善効果

発表者

ご氏名 卜部 貴夫 先生
参画学会 一般社団法人 日本脳卒中学会
ご所属 順天堂大学医学部附属浦安病院脳神経内科
ご講演タイトル 肥満と脳卒中リスク
略歴
1986年 順天堂大学医学部卒業
1986年 順天堂大学医学部神経学講座
1990年 日本神経学会 専門医取得
1992年 日本内科学会 総合内科専門医取得
1995年 順天堂大学大学院医学研究科卒業 医学博士の学位取得
2003年 日本脳卒中学会 脳卒中専門医取得
2009年 日本神経学会 指導医
2011年 順天堂大学医学部附属浦安病院 脳神経内科 教授
2012年 順天堂大学医学部附属浦安病院 脳神経・
脳卒中センター長兼任
2015年~2016年
、2019年~現在
日本脳卒中学会 理事
2019年 順天堂大学医学部附属浦安病院 副院長兼任
2021年 順天堂大学医学部附属浦安病院 副院長・
診療部長兼任

ご発表内容の要約

わが国において1961年以降、男女ともに肥満の有病率とBMIは上昇傾向を示し脳心血管疾患の重要なリスク因子となっている。日本を含むアジア太平洋地域で行われた肥満と脳心血管リスクに関する33のコホート研究(310,283名)のメタ解析では、出血性脳卒中は高度肥満で、虚血性脳卒中はBMI増加とともにリスクが上昇することが明らかにされている。一方でBMI 2kg/m2減少による年齢層別での脳卒中リスクの低下率は、出血性脳卒中および虚血性脳卒中ともに若年ほど大きくなることも示されている。
肥満は糖尿病、高血圧、脂質異常症などのリスク因子の集積によるメタボリックシンドローム(MetS)の病態で心筋梗塞や脳卒中を引き起こす。40歳以上の久山町の住民2452名を対象に行われた14年間の追跡調査では、MetSは男性の全脳卒中と出血性脳卒中、女性の全脳卒中と虚血性脳卒中の独立したリスクとなり、MetS項目数の増加とともに発症率が有意に上昇することが報告されている。脳卒中再発とMetSの関連については、60歳以上の59,919名を対象とした13研究のメタ解析により、MetSを有すると脳卒中再発リスクが有意に増大し、糖尿病、HDL-C低値、または2項目以上を有することが再発と有意に関連することが示されている。このように肥満・MetSが脳卒中発症および再発のリスクとなることが多くの研究結果から示されている。
日本脳卒中学会では、脳卒中発症予防、急性期治療、および慢性期治療に係る脳卒中治療ガイドラインを策定しており、肥満・MetSに関しても治療推奨グレード、エビデンスレベルが示されている。しかしながら現状では、肥満・MetSへの治療介入による脳卒中の発症、再発を抑制したエビデンスの高い臨床試験はないため高い推奨度は得られていない。脳卒中発症予防に関しては、脳卒中予防のため肥満の改善を考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)、MetSに対しては、運動・食事療法による適切な減量や内臓脂肪の軽減に努めるとともに、脂質異常症、高血圧、糖尿病への薬物療法を考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)といった内容である。再発予防に関しては、脳梗塞再発予防のために、肥満、MetSの管理を考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)という推奨グレードである。ただし、減量(5%〜10%)によりHbA1c値0.5%低下、収縮期血圧5 mmHg低下、HDLコレステロール5 mg/dL増加、中性脂肪 40 mg/dL低下といった脳卒中リスク因子の改善が報告されており、肥満を改善することでの間接的ではあるが脳卒中予防効果が期待されている。
一般市民に向けての啓発活動として、関連団体である日本脳卒中協会からは「脳卒中予防十か条」が提示されている。肥満に関しては第9条で「万病の 引き金になる 太りすぎ」として注意喚起を行っている。また脳卒中学会では、<脳卒中の予防・発症時の対応>および<発症後社会支援の啓発資材>の動画および資料を作成し一般の方向けに学会ホームページに公開している。この中で肥満に関しては、『脳卒中とは大の仲良し太り気味の人』のタイトルでの動画で、厚生労働省2022年度「循環器病に関する普及啓発事業委託費」によって日本脳卒中協会と協力して制作した資材である。

以上