Last update : 2024.07.10

日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・
日本肥満症治療学会 合同企画シンポジウム
【第1部】肥満症に伴う各々の健康障害の発症・進展
とBMIの関係と減量による改善効果

発表者

ご氏名 勝川 史憲 先生
参画学会 一般社団法人 日本臨床栄養学会
ご所属 慶應義塾大学スポーツ医学研究センター
ご講演タイトル 減量目標と食事療法のエネルギー量設定に関する試案
略歴
1985年 慶應義塾大学医学部卒業
同年 慶應義塾大学医学部内科学教室助手
(腎臓内分泌代謝学)
1992年 慶應義塾大学スポーツ医学総合センター助手
2011年 同・教授
2016年 同・所長(兼務)
所属学会 日本内科学会,日本糖尿病学会,日本肥満学会(評議員),
日本肥満症治療学会,日本臨床スポーツ医学会(理事),
日本臨床運動療法学会(理事〕,日本体力医学会(理事),
日本臨床栄養学会(理事),日本栄養・食糧学会
研究内容 健診・医療費レセプト突合データ解析,エネルギー代謝

ご発表内容の要約

日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」では,「肥満症の治療目的は,肥満に起因・関連する健康障害の予防・改善である」としている.減量目標の設定も,肥満に伴う健康障害指標の改善を根拠にすべきである.
減量目標は,当初は標準体重に設定されていたが,2006年版ガイドラインでは現体重の5%減,2016年版以降は現体重の3%減以上とされている.また,2024年からの第4期特定健診・保健指導では,アウトカム評価として「腹囲2 cm減,体重 2 kg減」(体重2.4%減)が用いられる.多人数のデータでの検証が進むことで,統計学的に有意な変化を認める体重減少率として,より小さい減量目標が設定される趨勢にあるが,ここでは異なる視点から,減量目標と食事療法のエネルギー量の設定を考えてみたい.
介入研究のメタ解析では,血圧,脂質,糖尿病患者のHbA1c等の指標と体重減少率(または減少量)に直線的な関係が想定されている.また,各診療ガイドラインでは,これらの指標のコントロールの目標値が設定されている.さらに,食事療法で達成・維持可能な減量の範囲も多くの介入試験で明らかとなっている.したがって,個々の患者の健康障害指標の現状から,ガイドラインのコントロール目標が体重減少のみで達成可能かはある程度の判断が可能であり,コントロール目標達成のための体重減少率の推定も可能である(体重減少のみで達成できない場合,他の治療法を併用し,減量は維持可能な最大レベルが目標となるかもしれない).
体重減少率と食事のエネルギー量の関係について,日本人の食事摂取基準2025年版では,多人数の集団で総エネルギー消費量と体重の関係を求めた検討をもとに,理論的推計を行っている.すなわち,体重減少率(%)=0.712×総エネルギー消費量の減少率(%)である.個人がエネルギー摂取量(=消費量)を変化させた場合にこの式を適用すると,エネルギー摂取量を 10% 減少させた際に期待される体重減少はおよそ7%であり,このエネルギー制限を継続する限り,7%の減量が維持されることになる.
現在,エネルギー必要量の推定には体重あたりのエネルギー係数(kcal/kg)が用いられるが,普通体重の近傍で設定された体重あたりのエネルギー係数(kcal/kg)は肥満者では過大評価,低体重者では過小評価となる.これは,総エネルギー消費量や基礎代謝量の体重による回帰直線のY切片がプラスとなることによっている.現状の方法による肥満者のエネルギー必要量の設定には限界があり,また,現在の食事量から制限すべき割合を指示する方が理解しやすい可能性もある.
上記の体重とエネルギー消費量の変化率間の係数(0.712)の日本人集団における値が明らかになれば,「診療ガイドラインの健康指標のコントロール目標→減量目標(体重減少率)→エネルギー制限(現在の食事量からの調整)」と,診療ガイドラインの治療目標から食事療法のエネルギー量へとエビデンスに基づいた設定が可能となる.その際のエネルギー量は,個人の健康指標の現状や減量維持可能な体重レベルも考慮したものとなり,食事療法の個別化を達成し,他の治療法との役割分担も考慮したものとなるだろう.