Last update : 2024.07.10

日本医学会連合TEAM事業・日本肥満学会・
日本肥満症治療学会 合同企画シンポジウム
【第2部】オベシティスティグマ解消の
アドボカシー活動

発表者

ご氏名 加藤 明日香 先生
参画学会 基調講演参加
ご所属 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻
保健社会行動学分野
ご講演タイトル 基調講演:肥満症のスティグマとアドボカシー
略歴 ・慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業
・ミシガン大学公衆衛生大学院修士課程修了 MPH
(公衆衛生学)
・東京大学大学院医学系研究科博士課程修了 PhD(医学)

米国にて,慢性疾患患者を対象とした行動変容理論に基づく患者教育実践の実務経験を経た後,
2011年より,東京大学大学院にて,2型糖尿病患者の治療を妨げる心理社会的要因として,新しい概念,スティグマについて研究開始
専門 ・行動科学・健康教育学・心理学

計量分析と質的分析の両技能を兼ね備えた混合研究法を得意と
する

ご発表内容の要約

スティグマは、特定のグループに対する過度に単純化された見方や考え方(ステレオタイプ)によって生じる。アメリカとイギリスで実施された医療者を対象とした研究によると、肥満についてのネガティブなステレオタイプには、怠惰、意志の弱さ、目標達成能力の欠如、不誠実、不快、知的でない、自制心の欠如、治療を遵守しない、などといった、国境を越えて共通したものがあることが報告されている。医療者は医学的な見地から、肥満を治療されうるものとして捉え、治療上望ましくない、つまり日常生活における良くない行為に焦点を当てて治療しようとする。その際、医療者が持っている肥満についてのネガティブなステレオタイプによって、患者に対する声掛けの内容やトーンが変わってくることがある。そのため、患者は悪いとされる行為そのものではなく、自分の何かが悪いのではないかと自身を責めるようになる。その結果、医療者に助けを求めず、周囲からは、病気を治す意志がなく、その指示に従っているようにも見えないということになる。ステレオタイプにはポジティブなものもあるが、このようなネガティブなステレオタイプに基づいて、「肥満は自己責任である」という認識が生まれ、肥満の人に対するスティグマへとつながっていく。
次に、アドボカシー活動とは、教育啓発を中心とする表層的なアプローチを超えて、より根本的なアプローチを行うことであり、問題となっている本質的な障壁への対応策の一つとして用いられる。したがって、肥満症のアドボカシー活動では、問題の本質的な障壁となっているスティグマの緩和を目指して、医療者を含めた社会全体の肥満症に対する認識を転換していく必要がある。肥満症は複雑で多様な病因によって引き起こされ、生涯にわたって治療が必要となる慢性疾患である。人々を「肥満症は自己責任である」という固定した見方から、「肥満症は慢性疾患である」という病因論的な視点へと導くような啓発が必要だと考える。
肥満症のアドボカシー活動を行うにあたっては、第一に、すべての医療者にスティグマ研修を実施すること。スティグマの根源であるステレオタイプは誰もが持っており、医療者にもある。しかしながら、医療者として、患者にとって最善の医療を提供するためには、医療者が持っているかもしれない肥満に対するステレオタイプそのものに気づくよう留意すること、そして自身の考え方や立ち位置を疑ってみるという姿勢を持つことが何より大切である。第二に、問題解決に向けて、アドボカシー活動の取り組みに、当事者である患者の視点を取り入れること。これまで、日本における肥満症のアドボカシー活動は、政府、医学会、保健医療団体などが中心になって進められてきた。その取り組みの企画段階から、当事者に参加してもらうことが重要である。第三に、アドボカシー活動のメッセージに、スティグマにつながるような内容がないかどうかを確認すること。これは、医学的に正しい情報であっても、当事者がどう捉えているかは本人でなくてはわからない。どのように伝えたら当事者にも受け入れられるのかについて話し合うことは、医療者と当事者の双方が歩み寄る良い学びの機会にもなる。第四に、アドボカシー活動の社会的インパクトを評価すること。これについては、計画段階から公衆衛生を専門とする研究者と協働して、測定していくことが必要となる。社会全体の肥満に対する認識に変化を起こすには非常に長い時間がかかる。日本におけるアドボカシー活動の結果を、それが効果的であったかどうかにかかわらず、すべて集積・体系化していくことにより、アドボカシー活動の実践知を次世代に継承していくことが何よりも重要である。

以上