肥満症は,個人によって異なる遺伝的要因及び様々な環境的要因が発症と経過に関係する多因子疾患である。環境的要因の中には、現在さらされているストレスだけでなく、幼少期の食育環境や、肥満に対しての差別的感情(オベシティスティグマ)、交通網が発達し食物が手に入りやすくなった昨今の文化的背景も関係している。実際、肥満症はこの約50年でパンデミック的に増加し問題化したのであって、自己コントロールができるはずの怠慢からくる問題であるとの認識は誤った見解である。このような中、2019年Lancet Public Health は肥満症の治療を困難にさせる要因に、オベシティスティグマ(肥満に対する差別・偏見)があり肥満症の核心的問題であると痛切に指摘した(Arora.M 2019)。相次いで2020年Nature Medicineには、複数の国際的学術団体がオベシティスティグマの終結に向けて、その具体的対策を盛り込んだ共同声明を発表した(Rubio F.2020)。日本におけるオベシティスティグマの臨床研究はほとんどないが、日本を含む 11 か国でオンラインの横断的調査の日本の結果からは、医療従事者と患者の側の受け取り方に大きな差があり、肥満は治療できるものという認識が薄く、肥満で困っていることを主治医に相談するまでにかなりの時間がかかっていることが示された。
一方、Kerry Sらの2010年の報告によれば、オベシティについての遺伝子・環境など制御不可能な理由に関するエビデンスの講義を行ったところ、講義前後でのオベシティスティグマの改善を認めた。このようにオベシティスティグマを解消するためには、様々な角度からの研究を推し進めるとともに、正しい知識についての啓蒙活動が必要であると考えられる。